痺れが伴わない腰痛/六本木整体GEN流院

痺れが無い場合の腰痛

 足や太腿に痺れがない場合の腰痛は、比較的ダイナミックな運動やストレッチ、筋トレをやっても大きな問題にはなりません。但し、常に念頭においておかなくてはならないのは、「腰の痛みだから腰の問題だ」という局所的視点だと、思わぬ病気を見過ごしてしまう場合があります。慢性腰痛の場合には、普段から健康診断を受けられている方は、ある程度病気は排除できますが、痛みが酷い場合や、急性腰痛の場合には、軽視せずに、一度整形外科等へご相談された方が良いでしょう。整形外科医でしたら、経験上まずい腰痛なのか、放置して良い腰痛なのか、問診レベルで瞬時におおよその見わけが付きます。

腰が痛い人の特徴

 下記は、一般的な腰痛に多い体の特徴です。年齢によって例外もあります。例えば、年配の方だと、骨そのものが変形してしまっていたり、一方で、思春期の子供は成長過程の問題であったりと様々です。

股関節が硬い

 腰痛の症状をお持ちの方で、最も多いタイプは「股関節が硬い人」です。
 お相撲さんの「股割(またわり)」というのは聞いたことがあると思います。この股割は、股関節の靭帯を意図的に引き延ばし、関節可動域を広げます。アレが体罰にならないのは、稽古によって体を大きくしなくてはならないため、自ずと体重が増えて行きます。すると、重さに耐えきれなくなった腰がまずやられてしまうのです。股割は、一見手荒い印象を受けますが、腰を壊さないように予防する、伝統的な目的があるのです。
 この事からも、股関節に柔軟性があるだけで、腰への負担は大きく減ることがわかります。であれば、股関節が硬い場合には、、腰に必要以上の負担を強いているという逆説も成り立つわけです。

股関節の構造

 股関節は、太腿の側面に出っ張りとして触れられますが、厳密にはこの部分は、股関節の大転子と呼ばれる部分で、大腿骨の外の出っ張りの部分です。

【図1. 股関節】

 股関節の形状は、骨盤の腸骨という凹面に嵌まり込んだ恰好ですが、この凹みが先天的に浅い人がいます。また、大腿骨の凸面になる側にも形成不全が多く起こります。このため、実物の股関節を観察すると、左右で外見上の形や運動範囲が違う人がとても多くおります。
 これを異常と捉えるのかどうかとなると、実は難しい話になります。というのは、股関節に限らず、骨の形は根本的に、生れた時から左右で対称の人はいないからです。そうなると、形成不全等は、医学レベルでの単なる線引きであり、股関節に何ら症状がない人は、人生の中で形成不全として自覚がないままに生活していることになります。
 股関節が硬いというのは、具体的に股関節周囲の筋肉が固まっていることを表します。ですから、先天的な股関節の動きの制限や左右差とはまた別の問題です。

股関節の硬さを調べる

 股関節の可動範囲は広く、曲げ伸ばし以外にも回転運動が複合します。この中で、どの動きが硬いと腰痛の要因になりやすいのか、参考までにこちらでご紹介します。
 まず、股関節の動きを強力に行うのは、お尻の臀筋群です。これが硬いと、股関節の動きも間接的に狭くなります。これを伸ばす動作を用いて、自分の臀筋が硬いかどうかを調べてみて下さい(図2.)。

【図2.臀筋の緊張を調べる】

 持ち上げた足を腕で抱えて内側に倒します。正常な人でも、臀部に張り感を感じると思いますが、慢性腰痛の方は、ひときわこの動作が苦手です。
 次に、深部にある筋肉で、股関節と腰の腰痛に付着する大腰筋です。これはインナーマッスルとも呼ばれる筋肉ですが、腎臓の働きとも関連性があります。この筋肉は、股関節をおへそ側へ引っ張る筋肉です。脱力状態で足をブラブラと回転させてみて、自由に動かない方が緊張状態にあります(図3.)。

【図3. 大腰筋の緊張をチェックする】

体重が重たい

 地球上で生活するうえでは、どうしても腰痛のリスク要因になってしまうのが体重の重さです。股関節のところでも触れましたが、お相撲さんはこのリスクを、股割として股関節の靭帯を伸ばす(靭帯は一度伸びると元には戻らない)ことで回避しています。
 股関節は、地面から入る力と、上から加わる重みの力がぶつかる部分であり、かなりの負担が掛かります。そのため、構造も安定形状をなしています。

【股関節が柔軟だと力の伝わり方がソフト】

【股関節が硬いと力の交点に負担が掛かる】

 この様に、体重が重い場合には、特に股関節に柔軟性が必要となります。股関節に硬さがあると、ここの部分がテコの支点となって、上半身側からの力と、下半身側からの力の交点が乱れてしまいます。結果的にこの交点に従う様に、腰椎は元の位置からズレを起こし、長期化すると今度は腰椎に破壊的なダメージが加わります。これが腰椎椎間板ヘルニアの主な原因の一つです。

横隔膜の硬さ

 横隔膜は、呼吸の時に使われる筋肉で、呼吸の主要筋です。「何故呼吸と腰痛が関係あるのか?」という質問が即座に聞こえて来そうですが、内部の仕組みを知ればなる程と思って頂けるはずです。
 まず、横隔膜の位置からご説明致します。外部からは動きが見えない筋肉でもあり、丁度肋骨の中に隠れています(図4.)。膜とはいっても筋肉ですが、心臓や肺等の呼吸器系と、胃や肝臓、腸などの消化器系を仕切る役割もしています。また、横隔膜には、食道を通す穴が空いており、これが胃に繋がります。ですから、食道裂肛ヘルニアと呼ばれる逆流性食道炎の原因は、この横隔膜がかなりの部分で影響を及ぼしています

【図4. 横隔膜の場所】

 呼吸運動の際には、息を吸った時に、横隔膜が下がり、肺の容積を増やします。これとは逆に、息を吐く時には、横隔膜は上昇して肺の窄ませる運動を行います(図5.)。厳密には、息を吐くときは横隔膜が積極的に関与はしていません。

【図5.呼吸と横隔膜】

 これらを踏まえて、腰痛の人が何故呼吸が小さいのか?という部分についてご説明致します。
 先程ご紹介した、インナーマッスルと言われている「大腰筋」ですが、実はこの筋肉は横隔膜にも付着をしています。正確には、横隔膜の脚部の部分です(図6.)が、つまりはこの大腰筋の緊張によって、横隔膜を直接的に引き下げ、呼吸運動を妨げてしまうのです。ですから、慢性腰痛の人は、慢性的に呼吸運動に制限がある可能性があります。
 これを調べる方法は、仰向けに寝て、ゆっくり深呼吸を行って、胸がしっかり呼吸に従って上下しているか観察します。これによって、胸が動かない側の大腰筋が緊張状態にあります。意外なことに、この動きの制限が慢性的になると、同じ側の四十肩、五十肩の原因になります。また、バンザイをした時に、大腰筋の緊張がある側の胸が開かないことから、相対的に緊張側の腕が短くなるのも特徴です。

【図6. 深呼吸を繰り返しても胸があまり動かない】

 少々余談ですが、息苦しい時に胸に手を当てる動作を無意識で行います。また、びっくりした時にも同様に胸に手を当てます。図6の手のポジションはとても合理的で、交感神経の働き(興奮神経)を和らげる効果があります。擦ると尚更効果的で、例えば胃酸過多で胃が痛い人も、薬を使わずにコレで多くは解決できます。

水分補給が下手

 腰痛なのに、何故水分補給なのか?と思われますが、急性、慢性問わず腰痛の頻度が多い方は、腎臓に負担が掛かっている人が多いです。特に、体内の水分が常に不足気味であったり、水分は採らずに塩分を多く摂取してしまう人は要注意です。
 股関節ー腰椎椎間板ー横隔膜まで走行している「大腰筋」は、腰痛の原因になることを述べましたが、この大腰筋を動かす神経は、腎臓の交感神経と密接な関係があることから、腎臓の環境と腰痛が比例する傾向にあります(大腰筋についてはこちら)。
 大腰筋が慢性的に緊張を起こしていると、次第に委縮へ移行します。委縮状態をいかに元の柔軟性に戻すかが重要なカギとなりますが、うつ伏せの状態で肘を立てる恰好で腹部を伸ばすと、一時的に大腰筋がストレッチされます(図7.)。辛い腰痛の方は、初めての場合、これがとても効果的です。。翌日に痛みが取れます。これは、緊張状態にある大腰筋が緩まることによる腰痛改善です。しかし、二度目は通用しません。次に出る腰痛は、緊張緩和では改善させられず、委縮を治さなければ本質的に腰痛は軽減しないからです。

【図7. 大腰筋をストレッチする】

寝返りが苦手

 意外な所に腰痛の原因があるから難解なのです。なんと寝返りの回数が極端に少ない人が腰痛になりやすい事が分かっています。人工的に腰痛を作りたければ、左右に仕切りを作った場所に一晩寝かせればそれだけでも十分腰痛を経験出来ます。
 寝ている時は、一見脱力しているように思われがちですが、実は筋肉というのは常に一定の緊張状態を保っています。ですから寝ている状態だって、全身は最低限の力は入っているのです。このため、正常の人の寝相は、一部の筋肉の疲労を切っ掛けに、何度も何度も無意識下で姿勢を変化させます。子供はこの反応が素直で頻繁に寝返りをします。一方で、腰痛のある方は、何らかの原因によって、寝返りの回数が極端に少ないため、睡眠=筋肉疲労を起こしていることが考えられます。寝る時の寝具を含めた環境を変えてみる事も一つの腰痛改善策です。ダントツで「真上を向いたままで寝る」のが腰痛持ちには多い恰好です。
 また、この場合の腰痛は、寝起きやその動き始めで腰に痛みを感じることが特徴です。

キツイ着衣

 これもまた盲点の一つです。特に原因になりやすいのは、サイズ感がキツメのスパッツやズボン、下着などです。寒い時期に外で仕事をやる人には残念なお知らせです。何が悪さをしているのかというと、骨盤部(お尻を含む)の関節の動きがこのキツさで制限されてしまうことです。骨盤部が動きを失うと、他でその分を補正して動作を行うことになります。この「」とは、骨盤の上下に関節であり、下部は膝、上部は腰椎です。ですから、腰痛のみならず、膝痛とも関係があります。伸縮性のある素材でも、膝の屈伸運動に制限を加える素材だと腰痛の原因になりますので、1サイズ緩いものを選ぶなどの対策が必要です。
 また、このタイプの腰痛は、寒い時に履くことから、寒冷期に腰痛を出す人ということになります。夏場にスリムなボトムを履く人は寒冷に限りません。

筋トレをする人

 筋力トレーニングは腰痛に対して「善」であるかの様な社会的認知度の高さがあります。その原因は、腹筋など、腰の周囲の筋肉を鍛えることで、コルセットの様なサポート作用を信じて止まないからです。また、一般的には、スポーツ選手が装着していることから、コルセットやサポーターに対する信頼性が高く、イメージを通して「腰痛予防」の連想が成り立つからだと思われます。実際に医師でもその様な指導をされる方がおられますから、これは何の筋肉を鍛えると良いのか?というところを述べられないと、実は議論の余地もありません。

 さて、自分の体重と、下肢からの突き上げる力は、骨盤部分で支持分散されると「体重が重たい人」の所でご説明しました。この股関節や骨盤が正常な状態であれば、これらの自重や足部から入る突き上げの力は、関節の可動性とそのあそび、または椎間板によって衝撃吸収の役割をしてくれます。但し、正常な位置関係であればというのがポイントです。例えば、股関節から椎間板、横隔膜まで伸びる大腰筋が、委縮した場合。骨盤全体が引っ張り上げられる恰好で固定化します。この状態だと、正常な位置関係で、自重及び足側からの衝撃を吸収出来ず、応力の中心点が前後や横に移動します。更に厄介なことに、神経機能が鈍くなると、関節が一方向にロックをしてしまい、関節がポキポキ鳴減少が現れます。そしてこのロックされた関節は、梃の支点部となってしまうため、自重及び足側からの突き上げられた力は、本来体重支持をする部分とは違う角度から侵入します。これが、腰椎には甚大な破壊力となって襲い掛かるのです。
 以前、バレリーナの方やフィギアスケーターが当院へ良くいらしておりました。何故当院へ通われていたのかというと、「腰痛」「椎間板ヘルニア」です。「あれだけ体に柔軟性がある人が腰痛になるのか?」と思われるでしょうが、柔らかいからこそ、一つの関節の固定化が怖いのです。筋肉の緊張で、一つの関節が固定化されたとした場合、梃の原理で一カ所に極めて強い応力が加わります。これが腰椎部分に応力集中した場合に、柔軟性がある分、あっと言う間に椎間板の破壊領域まで応力が達します。筋肉は鍛えらえますが、靭帯組織は鍛えることができないのです。このことからも分かる様に、腰が柔らかければ腰痛にならないというのは、勝手な思い違いです。
 少々話は筋トレから脱線しましたが、例えば大腰筋の筋肉を、片方だけ異常に鍛えたとした場合、簡単に骨盤は引っ張られて傾斜をします。また、両方を異常に発達させると、今度は、股関節から椎間板へ強固に付着する大腰筋は、直接的に牽引力を加え、圧縮する力にもなるのです。実は、トレーニング中にギックリ腰になるという人は、これが原因です。もしも筋トレをしたいとするならば、一部ではなく、全体をバランス良く鍛えなければ、腰痛の原因を作ってしまうことになり兼ねません。
 特に、腹筋だけ鍛えるとか、運動動作のし易さからか、一部だけのトレーニングを行う人が多くいます。一般的な腹筋動作だと、腹筋と同時に大腰筋の筋肉も緊張します。これを続けると、腹筋運動が腰痛の引き金になり得るわけです。

まとめ

 慢性腰痛は、大腰筋の委縮が原因になっている人が多いです。これは、筋繊維が直接的に腰椎の椎間板の繊維と癒合していることから、腰椎と直接的に共存しています。腰痛のある方で、大腰筋が正常な方はまずおられません。ご自身でケアされる場合には、図7のようなストレッチが最も簡単です。但し、腰椎分離症や、すべり症と診断された事がある方は、可能な限り反らす動作を限局的に行います。医学的には腰痛分離症でも腰を反らすの念のため禁忌とされていますが、著者の私も、高校生の時に腰椎分離症と診断されました。しかしながら、大人になってからは、腰痛など無縁の生活でして、いくら腰を反らしても、なんら悪化した事はありません。程度の問題だと思われますが、うつ伏せの恰好において、本を読む程度の姿勢でも、大腰筋は十分ストレッチされます。簡単に短時間で行えるケアですので、腰痛がある方は是非試して頂きたいと思います。