骨格のズレではない

骨格のズレの正体

 骨は関節を有することで、運動を可能としています。ですから、全身のどこが歪んでも、最終的には関節がこの歪をカバーすることになります。このことから、整体=骨のズレや歪みを治すという胆略的な解釈も間違えではありません。しかしながら、これが全ての原因であるかの様にいわれているかたも多く目にします。消費者目線といえばそれまでですが、ここではもっとs整体の本質的な部分をご紹介して行きたいと思います。

骨が問題ではない

 骨格は筋肉によって「動き」をもたらされるためか、背骨をはじめ、骨格のズレは筋肉のせいであるという意見がいまだに多く見受けられます。筋肉は、「背骨と骨格のズレについて」のページでも書きましたが、そもそも神経の命令によって収縮できる仕組みです。ですから、まずは神経機能に着目をしなくてはなりません。
 下の画像は、当院で使用されている INSiGHT(TM) Discovery(米宇宙財団/NASA認証)による筋電計のデーターです。筋肉は神経を通じて収縮を行います。それは安静時であっても、一定の張度を保つために、絶えず筋肉から活動電位が発生しています。この活動電位を読み取ることで、通常よりも緊張している状態がどこにあるのか、または正常な状態の範囲にあるのかを知ることができます。いわゆる「凝り」がある場合には、活動電位が上昇する傾向にあります。

図1. INSiGHT(TM) Discovery筋電計グラフ

図2. INSiGHT(TM) DiscoveryダイナミックE.M.G.

 

 これだけを見ると「やはり筋肉が問題なのでは?」となってしまいそうですが、重要なことは「なぜ異常な活動電位がこの筋肉に流れているのか」です。これについても「姿勢の癖」とか「左右のバランス」とか様々な見解がありますが、元から異常な数値で生れた体ではありませんから、それだけでは説明の深さとしては曖昧さが残ってしまいます。

異常電位の正体はコレ

 筋肉の異常電位は筋肉が自発的に発しているのではありません。まずは神経ルートの図をご紹介します(図3.と図4.)。

図3.内臓ー筋肉ー皮膚の反射図

図4.断面図上面から(ネッター解剖学アトラス南山堂より抜粋)

 

 骨格にある筋肉の活動は脊髄から出た神経を必ず経由しています。家電製品で例えると、脊髄がコンセントであって、そこに差し込んだコードのつながりで筋肉(上図➋➌)が動かされており、コンセントからコードへと電気が伝達されることで筋肉が活動(収縮)されているのです。しかしこの線は、一つだけのものではなく、根本のところで他のコードとも繋がりをもっています。それが「皮膚➍」と「内臓➊」です。皮膚は、神経のコントロールによって、表面の温度を維持管理するために、毛穴や毛細血管を開き閉じさせています。また、内臓は「交感神経」という自律神経がコードで繋がっていて、これらは全て運命共同体にあるわけです
 つまり、筋肉の異常な活動電位は、皮膚や内臓にも同様に異常な活動が起こっていることを示唆しており、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学においても、皮膚表面温度と内臓疾患の関連性について論文が発表されています。

内臓から始まる歪み

 これらのことから、内臓の機能状態が筋肉の異常緊張を発しているというケースと、筋肉から内臓に異常伝播させる2つのケースが考えられます。そこで、実際に筋肉だけを緩和させる手法で筋電計に変化が現れるかどうかを試してみました。すると、異常な数値は改善されます。しかし、2時間以上経過してから再び筋電計で計測を行うと、殆どが元の異常緊張を表す波形に戻ってしまいます。
 そこで、今度は内臓の可動性を回復させるような施術を行ってみます。同じように、術後に筋電計で計測をしてみると、異常な波形は消失します。更に2時間以上の経過後に再び計測を行うと、今度は波形の戻りはなく、維持されたままです。
 このことからも、筋肉の異常緊張や、それに付随する背骨や骨格のズレは、内臓由来であるという仮説が成り立ちます
 確かに、発生学的に考えても、捕食の為に筋骨格を兼ね備え、更に内臓を保護するために発達したと考えれば「内臓が骨格に影響を与えている」という方が自然だと思います。また、後にもご紹介しますが、内臓の可動性を回復させると、自動的に頭蓋の歪みも改善されてゆくという不思議な現象が見られます。これは、脳から内臓へ直接張り巡らされている「迷走神経」が、何かしらの影響を与えていると推測されます。この迷走神経と脳の関係性は「腸内細菌(腸内フローラ)が脳の活動に与える影響」によって証明されています。

交感神経が原因だった

 人間の体は、自動的に最適な状態を維持するために、生命維持に欠かせない内臓では、自律神経という機能が備わっています(図5.)。

図5.自律神経(副交感神経:青 交感神経:赤)

 特に内臓の交感神経は、背骨との関係性を持っており、例えば胃の場合だと、胸椎の4~6番あたりと連絡をする交換神経が走行しています。つまり、この胸椎部の皮膚温度の異常、背骨の関節の動きの異常(他動運動領域の)、筋肉の異常な活動電位がみられた場合、胃の働きにも異常が出ている可能性があります。よって、胃の物理的可動性をチェックして、胃への必要な施術を行うと、胸椎の4~6番あたりの皮膚温度の異常、関節の動きの異常(他動運動領域の)、筋肉の異常な活動電位が消失します。他にも、肩の高さの左右差や、足の長さの差なども、自然な状態へ整うことが殆どです。
 このように、背骨や骨格の歪みは、内臓の可動性減少、並びに、内臓疲労に伴う神経機能異常が原因で起こっているということになります。よく言われる「背中の痛みは重度の病気と関係している」という理由は、内臓の異常が背中の筋肉の異常活動電位に反映されたりすることによって起こる症状であるからです(皮膚へも痛みが出ます)。

腸内細菌の活動で証明された内臓と脳の関係性

 近年では、腸内細菌が脳の働きと関係があるという事が常識となってきました。マウス実験で、腸内に住む細菌の数が多い方が、脳の働きが活性化し、性格はもとより、うつ病やアルツハイマーが予防できるという内容です。
 仕組みとしては、腸内細菌が腸管膜にあるセロトニン(俗にいう幸せホルモン)分泌を促し、脳へ働きかけるという流れ。現在は細菌活動と脳との関係性に限局した研究ですが、他にも内臓同士がメッセージ物質を出すことで、まるで伝言ゲームのように会話をして、協調的に働くことが近年解明されてきています。
 我々の経験的な側面から言えば、他の臓器も脳との関連性が強固にあると感じています。それは、先にご説明した通りで、内臓の交感神経を介して背骨及び筋肉、皮膚の状況が変化するという部分とは違った、もう一つの経路があるからです。内臓は「交感神経」の他に「副交感神経」という、もう一つのコントロール機能を持っています。図5.でも示した通り、青色で描かれている網が副交感神経です(赤色が交感神経で背骨に沿ったところから内臓へ)。つまり、これまでご説明してきた背骨や筋肉、皮膚と繋がりがある交感神経とは違う経路の神経があるということです。
 この副交感神経はリラックスした時に働きやすい神経で、内臓の動きを主に活発にさせます(心臓を除く)。そしてこの副交感神経の走行ルートは、背骨を介さずに、脳から直接内臓へ届く、迷走神経というルートを持っています。
 下の図6.は、脳を下から観察したところです。10にある迷走神経はここから枝分かれして、頸静脈孔という頭蓋骨の穴を通過して内臓まで伸びている、とても長い神経です。

図6.迷走神経

 

 施術により、個別の内臓の動きがスムーズになるように誘導すると(内臓の施術についてはこちらで説明しています)、この頭蓋骨の迷走神経の出口付近の筋肉が全体的に柔らかくなり、そのすぐ下にある頚椎1番の可動域も格段に広がります。何故そのような現象が起こるのかは仮説の域を脱しませんが、内臓固有の神経機能が改善され、これが迷走神経に良い刺激となって、脳またはその神経の周囲環境が活発になると思われます。腸と脳との関係性を見れば、他の臓器も脳と何かしらの関連性があって然るべきかと考えます。

まとめ

この様に、世間では、骨のズレを治すという概念が定説化されているのですが、実際には神経機能によって骨格が歪んでいるのです。米国のカイロプラクティックにおいても、神経学が重要視されています。「人間は反射の生物だ」といういわれる程、物体として神経機能をなくして生きられません。また、人の死においても、脳死の判定が基準にされるのは、全て「神経反応=生きる」と直結しているものだからです。
 ここでは、内臓と神経と筋肉の関係性について述べましたが、実のところ、これではまだ深堀されつくされていません。更にマニアックに知りたい場合は、こちらの「整体はもはや肉体へのアプローチではない」をご覧ください。